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トップハート物語(4633)立志伝敢闘編
18/08/31
2012年(平成24年)3月中旬。
「そんな、親だから一時期だったらいい筈だ。リハビリが終わるまでそうしろ。」
 「生活保護も相談したんですが、親が近くに居るのでダメだと言われた。」
 「そんな事はないだろう。収入が多いのか。」
 「結構あるんです。」
 「それだったら、なおさらそうすべきだ。」
 「親に迷惑掛けたくないんで、これからハローワーク巡りです。5万でも6万でも稼がないと。」
 「お前、3週間家で絶対安静と診断書に書いてある。動くことすら出来ないと書いてあるんだぞ。その頭の重さが、頸椎に影響を与えている。親に迷惑掛けたくないと言っても、障害者になって完全に動けなくなったらそれこそ迷惑を掛ける。頸椎損傷では死なないからな。動かないで家に居ろ。」
 「いや、そうはいかないんです。」
 「処で、保険はどうしていたんだ。その損傷の治療の保険だよ。」
 「国保でした。無保険という訳ではありません。」
 「どうする、そうしたら一応契約自体無効だが、1日からこっちの会社の保険加入手続きをしているので、それを使うか。」
 「それでも短期間なので結構です。」
 「そうか、それで契約自体当社としては無効として考えているので、そちらはどうするの、考えは。」
 「もう働くのは無理なので、それで結構です。」
 「それじゃ、勤務実績を見て出勤日数分だけ支払うという事でいいんだな。」
 「はい、それで結構です。良くしてくれて、本当にありがとうございました。」
 思いがけない言葉に、私の心が揺れた。
 「そのようにしておけば、また、リハビリが済んだらなにか出来るかも知れないし、そうしたらまた応募して来なさい。」
 「はい、ありがとうございます。その時には宜しくお願いします。」
 意外な方向に行ってしまった。
 「これ、洗濯した制服です。実績記録用紙と預かった利用者の個人情報です。お世話になりました。」
 きっちり頭を下げて、玄関の戸が閉まるまで、見送った。
 彼女が帰ってから、これで良かったのか自問自答した。自分の思いがそれで良かったのか。いつも私が社員に言っている。
 「相手が何を望んでいるのか考えて、今求めているものをして上げなさい。」
 彼女が望んでいるのは、援助だ。
 でも、周りには両親や兄弟や付き合っている男性がいる。私の出る幕では無い。それを肯定したり否定したりして考えていた。傍で、NPO法人常勤理事の智子さんがあれこれと聞いて来るが、余りの予想外の展開に自分でも放心状態だった。無意識に簡単な事務手続きをして、何時も聞かない音楽を掛けていた。
 暫くして、介護サービス提供責任者にメールを送った。必要な書類を渡したいのだが、もう夜の7時だし明日でもよかったのだが、何故か彼女の顔を見たかったのかも知れない。
当社では一番真面目で信頼置き、裏表のない性格で、私の言葉を真剣に聞いて時には涙を流す事もシバシバ。
 彼女の一番好きな村下孝蔵の「初恋」のCDを掛けて来るのを待った。NPO法人常勤理事の智子さんが余りに私に似合わない演出に笑っていた。思った通り電話があり、私の在室を確認して、事務所に来るという。
丁度曲の2番になった時に入って来た。いつものように、色が白くて美しい大きな瞳で綺麗な、美人の彼女だ。いつも話をしていても、じっと見つめて目を逸らす事が出来ない美しさなのだ。彼女を見ているだけで心が落ち着くのだ。
 管理している書類を渡しながら、今来た新人の今回の騒動の顛末を話しした。彼女が、もし何かあった時に証拠として準備するものを収集していたのだ。あれこれ話しをして、
 「心傷ストレスから来るような障害だ。君も確かDVを受けていたんじゃないのか。」
 「はい、この会社に入った頃に受けていました。」
 彼女も、原因不明の病で体調が悪い時期があって強制的に何度も病院に行かせたが、どこも発見出来なかった。
 「でも、今はありません。」
 「そうか、そんな男が大体子供を投げ捨てたり熱湯を掛けたりして殺したりするんだ。子供を作らなくて良かったな。犯罪がひとつ生まれなかった。」
 まだ、勿論子供を作る事は出来るだろうが正式に婚姻はしていない。
 何も目的も無く、1時間も彼女は私の話し相手になって、私のこころのよどみを取り去ってくれた。その、お茶を飲む仕草も手を器の下に添えるお点前を見せながらの、心落ち着かせる姿だった。
何も私の心の中を知らずに、彼女は遅い時間事務所に戻って行った。

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