お知らせ


お知らせ

RSS

一覧に戻る

トップハート物語(3771)立志伝敢闘編
17/10/10
2011年(平成23年)3月19日。
 静かな事務所だった。土曜日とあって訪問する社員も少なく3人程度だった。朝一番で来たのは、この地域の自立支援の社員で二人の姉妹が全日本級の新体操の選手だ。隣の部屋に引っ越して来るので、金銭面を中心に色んな相談事がある。そして、その相談事が終わった最後に、
 「佐藤さんが、今回の故郷を襲った地震で激やせしているとみんなで話をしています。」 
 その言葉には、苦笑いで応えた。
 入れ替わりに、キラキラ目の玉緒ちゃんだ。
 集金したお金を持って来た。回覧したユニフォームなどの購入に対して、お礼を言われたが、
 「先輩への義援なので、申し込みは早くして前払いして運転資金に活用して貰う事にした。だから、納入されるのに時間が掛かる。」
 そう念押しした。
 それから、長い間誰も来ず静かな部屋だった。じっとしている事が多くなって、無造作にパソコンを操作している。震災の行方不明者の情報を得る操作をした。色んな名前を入れようと思ったが、もう何十年も前の昔の知人の姓は覚えていても、名前が忘れている人もいた。
実の弟の行方は不明だが、大人だから安心していたので、それほど気に掛けて無かったが名前を入力してみた。被害の大きい地区に住んでいると思われる一人の弟は、母親が探していると母親の名前が入力されていた。
それに対する情報は、
 仙台市の○○避難所に居ました。名簿が消されているので、家に戻ったと思います。」
 そう書かれていて、その証拠写真が見られるようになっていた。
 もう一人の弟は、仙台市街なので命の問題は無い、または連絡が取れたのだろう、母親も探していないようだった。安心して、次に進んだ。
次々と、名前を入力する。多くの人が、行方不明になっているし、名前の出て来ない人は家族全員不明になっているのだろうかと思うようになってきた。沈痛な気分になり、自分でも意識が分かるように落ち込んで来た。
それまでになかった、何もする気が起きなくなり、暫くイスの背もたれに寄り掛かってジッと上を向いていた。
 気を取り直して、再び入力する。高校時代に無二の親友だった奴は、行方が分からず、親族も情報を求めていた。また、同じところの南三陸町に住んでいた甲子園出場当時のサウスポーピッチャーが行方不明だと知った。
全国の多くの人から、情報を下さいと呼び掛けられていた。卒業後、自分で商事会社を起こしてギフトショップを展開していた。無口で、同じクラスでも声を聞いた印象が無いくらい静かな人だった。いつも、授業中に左手で硬球を握り握力を強化していた。
 その彼を求めたが、情報は同じだった。ところが、部屋に戻って新聞を読んで居ると、何と彼の記事が大きく掲載されていたのだ。彼が、全国を駆け巡っている時に、阪神淡路大地震で被害を受けた神戸の長田区の商店街を度々訪問して、励ましていたというのだ。
その恩を感じて、商店街では募金活動をして彼の行方を捜していたという。そして、17日に親族からメールで彼の最後の情報を得たという。
 それは、家族5人で避難した途中のビルに入ったが、結果的に息子を高い場所に逃げるように指示して、彼夫婦と年老いた両親が息子の目の前で波にさらわれたという。衝撃を受けて、その記事を何度も読み返し、そこに写っている大きな彼の笑っている写真をみて、ここまで何のために一生懸命に生きて来たんだ、死んでしまっては何にもならないと問いかけた。
 いよいよ現実が身近に迫って来た恐ろしさを感じた。無二の親友は、その地域で商工会の理事長をしている。彼は、全国に先駆けて商店街で買い物をするとポイントが貰えて、そのポイントで税金や健康保険などの支払いにも使用できるという画期的なシステムを構築して全国でも取り上げられた優秀な人間だ。
私が学校を卒業して川崎に出て、彼が岐阜に繊維関係の勉強に2年間行っていた。私が、車の運転が出来ないので、貰ったテレビを運ぶ時にわざわざ東京まで車を借りて運びに来てくれた。
彼が結婚すると、報告に婚約者を連れて東京に来て、私ども夫婦と会った。彼の主戦場である南三陸町に行って、泊まった事も有った。
 彼の事業は順調に発展して、不動産経営や子供用品などに手を拡げて、彼の地位もそれに合わせて向上して行った。毎年来る年賀状も、今年が最後になるのか。一体どこに行ったのだろう。
 一旦部屋に戻って、気の向かない昼食を摂って再び事務所に戻ったのは既に4時を回っていた。お局様筆頭サービス提供責任者が来たが、話す事も無い。無力に成りながら、ひたすら友人の名前を打ち込んで居た。
中学校の剣道部の先輩らしき人にアクセス出来た。東京に在住らしい。名前は特徴があるので、間違いがないとは思うが何しろ中学校時代で、写真を見てもはっきりとは断定できない。

一覧に戻る


  • ヘルパー講座・セミナー 最新情報
  • ケア事業・サービス 最新情報