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トップハート物語(3395)立志伝敢闘編
17/03/21
2010年(平成22年)9月中旬。
 振興銀行の破たんのニュースに、もしや妻が預金をしているのではと不安になってメールを送った。
 『まさか、振興銀行に預金しているんじゃないだろうな。』
 その返事は、二日間来なかった。
 何しろ、金銭感覚は優れているという訳ではなく、他人の言葉を受けてしまう性格がある。それに引き替え、私の言葉など全く受け入れる事はない。金利が高いと言われれば、その方に行く可能性がある。
今までも、サプリメントでどれだけ苦労したか。まだ、お金に余裕の無い頃にでも段ボールで大量に買いまくっていて押し入れに隠していた。それでもそれを使うならまだしも、途中で止めて子供に強制的に飲ませていた。嫌がる子供にだ。
今なら虐待だ。私にも、1本6000円もするノニジュースを突然送って来た。どうやら、長期契約をしたようで自分では飲めなくなったので私に押し付けて来たのだ。何度か飲んだが、毎月2本ずつ送って来るに辟易して飲むのを止めてホッテ置いた。やっとその波が終わったが、みんなが私の席の周りに積んであるそれを見て、ため息をついていた。
 何故か、その返事は私がメールを送った日から数日過ぎた今日の夜に来た。
 『預けてないよ』
 たったこれだけの返事だ。
 銀行に出掛けようと腰を上げると、新人ケアマネジャー宏美さんが来た。
 「また、デイサービスより電話が来ました。Uさんの奥さんが、旦那さんに暴力を振るわれている事を把握していますかって。」
 先日も、入浴前のボディーチェックで新旧混ぜて、つねられたようなあざが見られた。それまで、何度もお互いに喧嘩のような事をしていて、病院には旦那さんの方が治療に行くケースがほとんどだったのだが、奥さんのパーキンソンが進行して、動きが緩慢になった辺りから逆転した。
ただ、それは一般的な暴力ではなく、動きが緩慢になり叱咤する手段として行っているのだ。それは理解できるが、夫は妻が動けないのは動こうとする意思が無いからと信じている。夫唱婦随とはこの夫婦の事で、それまでは妻は夫に従い夫は妻を労りつ、という絵に描いたような夫婦だった。
それが、宗教がもたらす弊害が顕著に表れた。妻が、知人が誘う宗教の集まりに出席して教祖から
「親や親族の恨みを背中に背負っている。」
と言われて、何か思い当たるのか通い続けた。
ついに、自分を責めるようになり追い打ちをかけるように、
「背中に狼が付いている。」
と言われてそれに震えて、精神を病んでしまった。
 幻覚に悩まされて、入院したが夫が毎日通い続け、医師に治らないと文句を言って退院させてしまった。
それから、私の戦いが始まった。担当して2年になるが、常にその夫婦を中心に動いているようなものだった。カラオケが大好きな夫婦で、地域で中心的な存在で自宅を改造してカラオケ室を作ったくらいだった。
大勢の人がひっきりなしに訪れていたが、最近は妻の体調不良と共に孤独な老人世帯となっていた。この夜、訪問したが寂しくアコーディオンの楽譜が端に置いてあった。夫はアコーディオンを演奏し妻が歌う記憶がまだ生きているのだ。
その楽しかった光景を思い出し、妻の現在の状態を嘆いて叱咤する一つの手段として体や顔をつねり続けていた。
 「今日は何の要件でしょうか。」
 「実は、デイサービスからの報告で奥さんの体につねられた跡があり、現在の規則ではそれを知った介護関係者は通報する義務があるのです。その義務に従って、私に通報がありました。」
 実はこれは以前からある事で、私も訪問介護事業所からの通報で注意をした事があった。
それでも、通報が続くので地域包括支援センターに報告すると、
「市役所に伝えておく。」
との返事だった。
それでもらちが明かないので、今度は私が再び注意を喚起しに来たのだ。
 「このまま行くと、市役所の立ち入りや保健所で旦那さんの精神的な調査が強制的に入りますよ。ですから、叱咤は声だけにして貰って、体に後が残るような手を出すのは止めて頂けないでしょうか。旦那さんは、虐待の目的を持ってやっているのではないのはよく分かっています。しかし、今の時代はそれをみんな虐待と理解してしまいます。」
 「歌を歌ったり、公園に行ったり楽しかったことが今出来なくなって、どうして出来ないんだと思って、ついつい手が出てしまって。反省しています。済みませんでした。」
 そう言って頭を下げたが、何となく戸惑った。
私は謝って貰う対象ではないのだ。
 昼間は、職業訓練生の面談があり6人行った。それぞれの、人生の歴史を見るようで、辛い気持もある。何の権限も持っていないのに、就職支援という曖昧な理由で、他人のプライバシーに立ち入っている。その期待に、どう応えるのかが私の仕事だ。

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